発信者:Nexdata 日時: 2025-08-07
Nexdataは、AI技術の発展に伴い、音声合成(TTS)分野においてますます重要となるトレーニングデータの質について、最新の開発動向と実用化課題を踏まえ、ご報告いたします。
日本語音声合成技術の現状と課題
深層学習を活用した音声合成技術は目覚ましい進歩を遂げています。特に、2018年に登場したTacotron 2を代表とする系列変換モデルを用いた手法は、英語において人間の録音音声と同等の品質を達成し、音声合成の実用化を大きく前進させました。
しかし、日本語音声合成の分野では、特有の言語構造がもたらす課題が存在します。日本語が漢字、平仮名、片仮名の3種類の文字列で構成され、漢字が複数の読み方を持つという複雑な言語特性が、音声合成の精度向上を妨げる要因となっています。
特に、アクセント制御の難しさが顕著です。日本語はアクセント結合と呼ばれる性質を持ち、単語と単語が結合することでアクセントが不規則に変化します。このため、非ネイティブ話者だけでなく、AIシステムにとっても正確なアクセントの制御は困難な課題となっています。
高品質トレーニングデータの重要性
音声合成システムの性能は、トレーニングに使用するデータの質に大きく依存します。日本語音声合成の実用化において、以下の3つの要素が特に重要です:
1. 音声のクリアさ:背景ノイズが少ないプロの録音環境
2. 話者の適切さ:目的に合ったトーンや年齢層の話者
3. データの多様性:ニュースや会話など、様々なシチュエーションをカバー
しかし、実際には、これらの条件を満たす高品質な日本語音声コーパスは非常に限られています。多くの公開データセットは、特定のジャンルに偏っていたり、録音環境が不十分であったりするケースが少なくありません。
日本語音声合成の精度向上には、単にデータの量を増やすだけでなく、多様な話題と話し方をカバーしたバランスの取れたデータセットが重要であることが示されています。特に、ニュース読み上げと会話の両方を含むデータは、音声合成システムの汎用性を高める上で不可欠です。
Nexdataの日本語音声合成コーパスが目指したもの
こうした背景を踏まえ、Nexdataでは「10.4時間- 日本語音声合成コーパス-女性」を開発しました。
特徴:
プロの録音環境で収録された高品質な音声です。残響時間が0.1秒未満、背景ノイズが30dB以下というプロ仕様の録音スタジオで、専門的な高級マイクを使用して収録しています。これにより、ノイズの影響を受けにくいクリアな音声データを提供できます。
ニューステキストと対話テキストのバランスにこだわりました。ニューステキスト3,300文(5.2時間)と対話テキスト4,100文(5.2時間)を収録し、合計10.4時間の豊富なデータを提供しています。
ニュース読み上げは一定のリズムと明瞭さが求められるのに対し、対話テキストは感情表現や自然な間の取り方が重要です。この2つの要素をバランスよくカバーすることで、より多用途に使える音声合成モデルのトレーニングが可能になります。
20-30歳の女性という話者を選定したのもポイントです。この年齢層の声は、若々しく明るいトーンでありながら、十分な発話の安定性を持ち合わせています。スマートフォンの音声アシスタントやカーナビゲーションなど、幅広い用途に適した声質です。
このデータセットのもう一つの特徴は、単語レベルの高精度トランスクリプションです。単語の精度率は99%以上と、実用レベルの品質を実現しています。
日本語は同じ漢字でも文脈によって読み方が変わるケースが多々あり、単語レベルのトランスクリプションがあれば、モデルはより正確な発音ルールを学習できます。従い、このデータセットでは、音素やイントネーションのバランスにも配慮、均等にカバーすることで、より自然な発音を実現するためのトレーニングを可能にしています。
今後の展望
音声合成技術は、単なる情報伝達の手段から、ユーザー体験を豊かにする重要な要素へと進化しています。NHKの研究では、音声合成は放送業界だけでなく、社会貢献活動にも活用され、その活用の幅はますます広がっています。
特に日本語では、敬語表現や文脈に応じた話し方の変化など、文化的な要素も考慮する必要があります。これからの音声合成技術は、単に音声を生成するだけでなく、適切なニュアンスや感情を伝えることが求められています。Nexdataの「10.4時間- 日本語音声合成コーパス-女性」は、こうした複雑な要件を満たすための高品質なトレーニングデータを提供することを目指しています。